「より患者さんを身近に感じ、患者さん、ご家族に寄り添った医療をしたい」。そう志し、昭和57年4月に父がこの上丸子の地に塚原医院を開院しました。自分の目指すべき医療のため昼夜問わず外来、往診と診療に明け暮れる毎日でした。幼い頃から父の後ろ姿をみて、いつしか自分も自然に医師の道を志すようになりました。大学を卒業して医師になり、大学病院や県内の病院で勤務する中で故郷への郷愁と私を育てて頂いた地域の皆様へ、医療を通して恩返しをしたいという思いが強くなり、平成26年3月、新たに「塚原醫院」として開院いたしました。

近年、医療技術が急速に進歩する反面、地域は少子高齢化が進み、医療情勢は大きく変化しています。地域の医療もこれまでの「治す医療」だけでは成り立ちません。外来、在宅診療を通して「支える医療」にも力を注ぎ、地域のかかりつけ医として皆様の健康、生活を支えていきたいと思います。

「温故知新」という言葉がありますが、父の築いてきた患者様本位の医療を継承し、そして今まで培ってきた新しい医療知識や技術、経験によって地域の皆様に貢献できるよう力を尽くしたいと思いますので、よろしくお願いします。

医師の命

祖父は病弱であったため、小学校卒業と同時にその治療を兼ね、薬局生として近くの診療所に無報酬で住み込み、苦学の末、明治39年12月医師となりました。祖父の志と努力が、私が医師となった原点です。
父もそうであったように、私も家督相続という古い風習の中で医師になるべく育てられたかもしれません。私自身は幼少期から建築家に憧れ、医師という概念すらありませんでした。
私が小学校4年生の時、医師という職業を意識した出来事があります。父は産婦人科医で分娩に携わっておりました。出産後、産褥子癇で産婦さんが亡くなるという、父や家族にとって晴天の霹靂というべき出来事が起こりました。父は私たち子どもを含め、家族全員を待合室の畳の上に座らせ、額が畳につくほどに頭を下げ、亡くなった母親とその傍らで元気よく産声をあげる子どもを見送りました。そして、７日間の休診をしました。産婦人科醫院としての屈辱的な日々であったかもしれませんが、医師としての父の感性であったと思います。以来、私には「自分なら助けられたかもしれない」という幻想と共に、いつの日か医師を志しました。
医師として半世紀近くが過ぎ、幼少期の印象は鮮明に、しかも衝撃的な光景として今も心に残っています。全ての焦点は、「死」と「生」を同時に見た瞬間にあり、父の心情を自分の感性として持ち続けて参りました。
私は医師の命は感性にあると考えています。豊かな感性を培うことこそが、患者さんに寄り添う医療に繋がると信じております。